風評被害とはなにか、過剰反応か正当な防衛行動か、そして賠償に

福島第一原発の炉はまだ安定していない
小康状態ではあるのだろうが、窒素注入などをして炉内の気圧を調整しないことには水素爆発の発生も予期され
炉からはいまだに放射能物質が溶け出した水が流出し、低濃度とされる汚染水は海洋に投棄された
当然、燃料棒の冷却を進めるために継続的に水をかけ続けなければいけないため、循環システムが構築されていない現在、ますます汚染水がたまり、どのように処理するか問題になるだろう。


つまり現在のところ
空気中に広く散布された放射性物質による汚染のピークはベント後の爆発に伴う飛散に因をもつもの
ただその後、それに比べれば格段に少ないが一定程度の空気中飛散は見られると予想され
もし、水素爆発などが発生した場合には、これまでのピーク時を超える飛散の可能性はまだある
再臨界についてはよくわからないという感じか…


水に関しては今現在も、高濃度の汚染水と低濃度の汚染水がすさまじい勢いで作られている…
現在のところ、玉突きでどうにかタンクに納めている分もあるが…現時点ではその保水量を超えたから、海洋に投棄したわけで


つまり現時点で大気中の汚染も海洋中の汚染もピークを過ぎたとは断言できる状況ではない
潜在的に現状よりも悪化する可能性を持っているということは踏まえる必要がある


その中で、なにが風評被害かというのを確定するのは本当はかなり困難である
‐海外の日本農作物輸入国が、今回の原発危機を受けて輸入を停止(あるいは放射能チェックを義務化が貿易障壁として機能し、従来通りの輸出時利益が得られない)する
これを「風評被害」というのは簡単だが、これは本当に「風評被害」といっていいか大きな疑いがある。


一つは、輸入する側の自己防衛をどこまで認めるかという議論となる。日本側が輸入国の立場でこれが問題になったのは、BSE問題後の米国からの牛肉輸入の問題である。米国側によれば現在の米国によるチェック体制は「科学的にBSEの問題のない牛を輸出しているといえる検査をしている」ということになっている。この理路は今現在の政府発表の「直ちに健康に影響がない」よりも踏み込んでいて「全く影響がない」と同様の主張である。しかし、であるにもかかわらず日本はその後米国産牛肉に対してどのような態度で接したか…「全頭検査」の要求である。統計的科学的数値上の安心ではなく、寸毫たりとも危険でないことを証明しろというのがこの立場であろう。私はこの立場が完全に間違ったものとは言えないと思う。通常時からあらゆる作物についてこのような調査を課すことが「貿易障壁」であるという主張はその通りだと思うが。大枠として危険性を感じさせる状況(米国におけるBSEの撲滅未達成や肉骨粉の利用)があり、それに伴い消費者によって不安感が醸成されるくらいならばチェックを強化するというのは選択肢として十分理解できる。この場合、コスト割れを承知で常に後者のチェックを行い、不安感の払底に務めるか、前者の大枠としての危険性を払底するしかない。
現在の、日本の状況において前者は大変難しく、後者を徹底させていくことでしか信頼の確保は難しいだろう…。
ただ、中国などについてはすごく難しいという気もしている。
中国における日本製品の価格設定は、中国国内製品への不信の裏返しともいうべき、日本製品安全「神話」によって支えられてきた「ブランド」戦術をとってきた。ブランドの根拠は「高い日本の安全性」にほとんどが拠っていた…今回、それが大きく揺らいだ…そしてそれは「崩れる」必要がなく「揺らいだ」だけで大きく価値を損なう。日本と中国の通貨差・物価差を埋める、神話によって形成・受容された高価格と中国における富裕層の絶対的な人数の多さによって何とか利潤をあげることができる対中国輸出(農業生産物の国外輸出全体にもつながる図式)はその最大の武器が揺らぐだけで大きく行き詰る…。
たとえ、放射能と全く関係ない地域であれ「日本ブランド」を共有してきた以上、信頼回復をすさまじく長い時間かけて行う必要があり、それですら「神話」崩壊以前には戻れないかもしれないという状況といえるだろう。


二つめは、国内になる。国内は当然「神話」にはそれほど拠っていない。ただ国内でも現時点で、どの程度の汚染がどの程度消費してよい状況につながるか生産者にも消費者にも…それだけでなく、小売にも仲買にも開示されているとは言い難い。明確に開示されているのは、特定地域の特定の野菜から付着する放射性物質の量が一定量を超えたものが確認されたので「食べても直ちに影響が出る量ではない」が市場での取り扱いを停止するという情報だ…。各県レベルでも対応に困っている状況を聞く。群馬県西部のある知人の農家は、ハウス栽培かつ200キロ近くの距離があるにもかかわらず、2日に一回ペースで放射線調査をやるよう指示を受け、計画停電の影響もあり出荷作業に大きなダメージを受けているということであった。ここでの放射線調査を、過剰反応と笑うことは簡単であろう、しかし現場の認識はそう簡単でない、もし数値が出てしまったらという恐怖感は近隣県の農家、農業関係者はかなり幅広く抱える共通の恐怖感であろう。自分たちで量っていて数値が出ても大ダメージだが、量っていなくて市場で数値が出てしまった日には…
ただしそこまでして流通した野菜にしても購入するしないかの判断は基本的に消費者に委ねられる…
そこで危なそうだからしばらく避けるという、曖昧な意思に基づく敬遠を「風評被害」とするかどうかという点について議論がありうるのではないかと思う。(原発による農作物流通の被害であることは間違いないが)


しかし、明確な風評被害といえるものが現時点でもある。
原発事故以前に袋詰めされた、流通したような農作物についての購入拒否感である。これは明確に、放射性物質の影響を受けていないのに「地域名で避ける」という「風評」にもとづく薄い根拠すらない「被害」である。
もう一つは、前出の群馬西部の事例のような100キロ以上というような距離が離れた地域における農産物まで消費を避けるのは問題であろう。
そしてあまりにひどい風評被害として驚愕したのは、退避区域から避難してきた人々に対する受け入れ拒否などである。たとえ被曝していたとしてすら伝染病のように他者に感染するものではない。これも明確な「風評被害」であろう。(風評被害というよりも無知に基づく「差別被害」という気がしなくもないが…)


国と東電に対して求めたいのは
周辺数十キロ圏の農業従事者・漁業従事者に対して現時点での農業資産(種苗や畜産物など)や漁業資産(養殖物など)の金額産出と補償、原発被害が収まり確実にこれ以上放射性物質が確認されないという状況になるまでの所得補償、そして土地などを含む農業資源・漁業資源への除染費用と除染終了までの所得補償、一定レベルの生産・漁労再開までの所得補償。その後初めて確認しうる「風評被害」分の算出とそれに基づく収入に対する差額補償と上乗せ賠償を行うべきであろう。
すさまじい賠償金になるだろう、しかしここまでやったとしても、被災農業者・漁業者が被害前の状態を回復できるかどうかは分からない…そしてこれだけのダメージを与えたのだということを自覚する必要と、都市部住人にもそれを知らせる必要がある…。


領域確定については、現在の同心円での線引きではなく、行政区の区切りと距離の両方の観点から行うべきで50キロ前後を目途に行政区分線引きと合わせて、一次被害区域を確定。その周辺地域について二次被害地域、三次被害地域と指定して風評被害の認定を行う必要もあるだろう。