• エリート主義

少数者が多数者を支配するのは歴史を通じて常に見られる現象であるが、この常識的な事実を1つの思想ないし態度に理論化したものをエリート主義と呼ぶ。
理論的にはモスカ Gaetano Mosca が創始者とされているが、エリート理論を社会学の一つの基礎概念として全面的に展開した人としてはパレート Vilfredo Federico Damaso Pareto の名がよく挙げられている。政治学会ではエリート主義論は時をおいて現れ、第2次世界大戦後のアメリカ政治についてマルクス主義的経済還元論を批判したミルズ Charles Wright Millsの権力エリート論、あるいは政治的多元論におけるエリート概念の曖昧さを批判したものとしてバクラック Peter Bachrach の民主エリート論などがある。
エリートは、その行使する権限、それが享受する報酬と社会的尊厳においては非エリートに対して不平等な立場にあり、エリート主義は、一方では社会に対してのエリートの必要性を強調すると同時に他方でこの不平等の正当性を説明する。伝統社会におけるエリートは、君主制、貴族性のような身分的秩序に依存して成立し、後継者の調達は世襲によった。それにたいして近代民主主義社会は、少数支配者にたいする「多数者の支配」を唱え、多数者の選択によって支配者を選抜し、かつ交替させることを要求する。固定化したエリート層の存在が原理的に否定されるのである。したがってエリート主義は、民主主義の挑戦にたいして「少数者支配の鉄則」(ミヘルス Robert Michels)を説明する理論を通じて現われる。
もとより伝統社会の諸要素は多少とも近代社会に継承されており、したがってエリート主義は(1)伝統的エリートの近代社会における有用性を説くもの(例えば、公爵家に生まれながら戦時イギリスの指導者となったチャーチル)(2)安定した民主主義社会でエリート調達の回路が定型化した場合に生ずる問題(例えば、二世議員や学閥主義)をめぐって論じられる。さらに、(3)右に見たような伝統的・定型的エリートに対抗して現われるカリスマ的エリートに対する待望論、あるいは警戒論という文脈で論じられる。
by政治学事典@弘文堂