弱肉強食の実

 ウォルマート効果のポジティブな評価である「インフレ防止」と「雇用の創出」は、確かにウォルマート社の企業努力によるところも大きいでしょう。一般的に流通は巨大化すれば効率は向上します、近年のIT化にいち早く対応することによってウォルマート社はその効率向上を最大化してきたといっても過言ではありません。しかし、ウォルマート社の低価格路線を支えるにはそれだけでは不十分なのは当然といえるでしょう。小売業最大の支出は、「商品の仕入れ」と「人件費」だからです。ウォルマート社は、低価格商品を仕入れる先を中国に絞り、また同社スタッフの人件費を最大限に切り詰めることでそれに答えました。
 段々、この辺りから雲行きが怪しくなってくるのですが・・・。当然、ウォルマート社が収益を上げるためには薄利多売しかありません。これは、低価格を売りにする小売業の仕方のない面ではあるのですが。そうすると、新規参入者として既にある市場から顧客を奪い、少しずつシェアを拡大するという方法はあまりうまみがありません。総合スーパーなのですから、その店舗カバー範囲内のあらゆる小売業をつぶして、その地域の顧客を根こそぎ独占するという方法をとるのは、当然の帰結といえます。これが、ネガティブな評価としての「中小小売業」消滅の実態といえます。それは経営戦略の中に組み込まれた、当然の帰結なのです。
 また、「人件費」の問題があります。非常に安い時給で、長時間拘束する、パート・アルバイトが多いので社会保障に裂く費用は最低限に抑えられる。これは現在の日本の、フリーター増加との関連も色々見出せるのではないかと思いますが・・・。他の雇用先がなくなった状況では、「ウォルマートで働くしかない→ウォルマートでの賃金ではウォルマートでものを買うしかない」というスパイラルなんて容易に完成できます。安物買いをする人というのは、安物を買わざるをえないから安物買いをしているのです・・・日本で百円ショップや外食産業の価格競争をデフレを引き起こすから危険といっておられた方々はこの辺をどう考えておられるのか分かりませんが。
 日本では「食の安全」に関する意識は比較的高く、アメリカ産牛肉輸入問題にしても消費者団体は比較的強い発言権を持っています。しかし、経済格差の拡大は「良いものを適正な値段で」という消費者の選びうる選択肢を消失させ「悪いものを安く」「良いものを高く」という選択肢のみを残す結果になりかねません。いえ、既に現在その状態が生じているかもしれません。これが自由化の帰結であるとするならば、アメリカの通商担当の「牛肉の危険よりも、交通事故の危険のほうが高いのだから、日本人の反応は過剰だ」という意識の出所もわかろうというものです。
 初めの大規模小売店舗立地法とズレが生じてきてしまっていますが・・・スミマセン。都市の郊外化の問題、中心市街地におけ中小小売業の衰退・消滅、経済の格差拡大これらはアメリカをなぞっているような気がしてなりません。このあと、発生したのは中心市街区のスラム化であり、アメリカ人の2割近くの無保険者の存在であり・・・と考えると暗澹たる気持ちにさせられます。
 法律の問題に関して、結論だけ言わせてもらえれば。大規模小売店舗立地法による規制強化は必要、しかしそれだけでは不十分ということで。

関連すると思われるので
http://d.hatena.ne.jp/tazan/20060202