メディアポリティクス


上は東京大学における朝日新聞の寄附講座「政治とマスメディア」を中心になって行った元記者の星浩氏と研究者として逢坂巌氏が書かれた本である。
下の論文は、逢坂巌氏が2007年の参院選に特にスポットライトをあてて、政党のメディア戦略を分析したものである。


評価としては、『テレビ政治』はグダグダなものになっているのに対して、『2007年』は非常に優れた論文となっている。


『テレビ政治』がグダグダなものになっている原因は「はじめに」にもあるが、「テレビの専門家ではない」と自身で述べる星浩氏による印象論的な「テレビが日本政治に与えた「影響」」論と逢坂巌氏の「政治学的、社会学的アプローチ」の不整合ゆえではないかと思う。『テレビ政治』における「朝まで生テレビ!」の隆盛とハーバーマスの「公共圏」の議論を重ね合わせる*1にいたっては少し唖然とするところがある。


それに対して、『2007年』はCM出稿量や放送時期・時間にいたるまで非常に精緻なデータを使用し、2007年選挙時の民主党自民党*2メディアに対するアプローチの違いを浮き彫りにしている。インタビューにしても最近、政治学の分野において散見される、インタビューの為のインタビューでなく、聞くべきことを聞くべき人に聞いているという焦点のはっきりしたインタビューによって逢坂巌氏の問題意識を浮かび上がらせることに成功している*3
あえて惜しむべき点を上げるとすれば、メディア製作者の意図の部分は十分に述べられていると思うので、プロパガンダ研究など心理学や社会学で研究の進んでいるメディア(CM)構造の部分にも何らかのコメントが欲しかった。


もしかすると、これは『2007年』への要望としてではなく『テレビ政治』に対しての要望として出すべき問題かもしれない。なぜなら、CMはその短さや主体の明確性*4とあいまって方向性がはっきりしている。それに対して、ニュース、バラエティーが扱う場合は日本のマスコミの特性か、賛否を表向きにはあいまいにすることも多い為である。日本のメディア関係者が、プロパガンダの研究で明らかになっている手法等にどれだけ自覚的か、またどれだけ自制的かなどは地上デジタル化などの動きを見ても疑問に思わざるをえない。


上の文脈から直接でずに唐突と思われるかもしれないが、メディアポリティクスやテレポリティクスの研究に対して、テレビ関係者やメディア関係者は参与すべきではないかと思う。少なくとも、近年の関係コメントはメディア周辺部からの過度に反省的な意見か、メディア中心部からの過度の擁護論の二極化の様相を呈し自らの問題を論じられている為か冷静な立ち位置にあるとは思えない。

*1:『テレビ政治』p179

*2:というよりも小沢一郎安倍晋三のといったほうが適当かもしれない。

*3:回答者の回答が答えるべきところ、答えて欲しいと望むことを答えているかどうかは別にして

*4:依頼主、広告主の利になるようにしか放送しない筈