至極真っ当な発言と思うのですが

現在、トップページに掲載されており、ページ変更の可能性が高いので一応全文を本エントリ最後に転載する。


 北朝鮮問題に関しての加藤紘一氏の発言が何故か批判されている。
 批判自体は言論の自由の範囲内である。また、加藤氏の発言に対しての批判というのは十分にありうると考える。
 しかし、批判の声の多くに内容がなく、「そんなことをいうのは非国民である」というだけのまったく無意味な批判しか存在していないことに非常に危惧を覚える。


 加藤氏の発言は、交渉事の前提として、相手との合意事項の履行や相手の面子の尊重は重要であるという、当然の主張をしたに過ぎない。元外交官でもある加藤氏の非常に冷静な意見であるといえる。


 被害者感情あるいは親族の反応として「返すべきではない」という主張は理解できる。しかし、それはあくまで被害者感情・親族の反応レベルであり、問題解決に当たりそれがいかほど重要なものかは別途議論されなくてはならない。*1
 戦略の点で、加藤氏以上の有効な*2対策(解決策)を示すことが出来、それを実行するに当たって、加藤氏の発言が大きな障害になるというのであれば、加藤氏への(そうした発言をするなという)批判は十分理解できる。


 しかし、批判者にそのような生産的な議論を行おうという動きはない*3安倍晋三氏にも、「救う会」にも、「強硬策」をとり続けた上での解決までのシナリオ*4が存在したようには到底思えない*5


 もし本当に全員*6帰国を望むのであれば、様々な形で超法規的措置を講じる必要が北朝鮮側にも、日本側にもある。もし、多くの北朝鮮通とやらが言うように拉致被害者の一部が、北朝鮮国内において機密情報を握る位置にいて、そのために、前回の被害者一時帰国*7の候補者から外されていたのであれば特にである。


 帰国後、機密をしゃべらないということに関して、北朝鮮を信用させるだけの「なにものか」を見せなくてはいけないのはその場合、日本の方である。


 また交渉の際の信義に関しては、「遺骨」問題や「握手してのDNA採取」問題などちょっとなにかおかしいのではないかということを当時の日本側はしていた。「遺骨」問題に関しては、真偽の確認とその指摘が問題なのではなく、交渉に際しての情報の流出の仕方と真偽確認その他の方法論の曖昧さ(事後確認を不可能にした点)が問題ではあるが。


 金正日*8天皇のようなもの発言というのは、逆にいかにも自民党的な発言でこれが不敬というのはあまりに戦前的という感じがする。ここでの加藤氏の「金正日天皇」発言は、政治的責任追及の対象に出来ないという点を言ったに過ぎないのではないか。


 あまりifについて語っても仕方がないが、森喜朗氏が2000年ごろ、首相当時、ブレア氏との会談時漏らしたとされる第三国発見方式(東欧あたりを想定か)が本当はもっとも落しどころとして適当だったのではないかという気がしてならない。小泉会談時のお土産(=譲歩の印)として、北朝鮮から提示された「被害者の一時帰国」という一つの*9重要な機会をつぶしてしまったのは、加藤氏の言うように日本側の失策と(他の国からも)評価されてもおかしくない。


 政治学者のジェラルド・カーティス氏がアメリカ政府関係者とともに、北朝鮮外交官と会談した際に、日本とも交渉を進めてはと提案したらしい。
 それを受けての北朝鮮外交官の言が「日本とは交渉する気はない。アメリカと交渉を進めさえすれば日本はあとから飛んでくる」というような旨の発言をしていたと紹介していた。
 カーティス氏は、日本はアメリカ依存の外交ではなく、独自の外交をという点でこの話を紹介しておられた。しかし、少なくとも小泉首相当時は明らかに日本と「交渉」していた北朝鮮のこれだけの硬化には、日本と「交渉」しても仕方がない(あるいは「交渉」できない)という考え方が芽生えたためではないかという気もした。


 おとなり日記とかをみて愕然…
 みんな潔癖症なのか?それともお花畑なのか?
「信頼なんて関係ない」ということは「交渉しない」ということだし
「交渉しない」で「拉致被害者(全員)の帰国がかなう」ということはありえない…はず
戦争なんてしたらますます帰ってこないと思うのだが…
今の世界で日本が経済制裁したら、北朝鮮が完全に干上がって降参すると思ってた人なのか…
それとも、私のような凡人には分からない解決のルートが実はあるのか?
「解決を望んでいない」というのがありえそうで怖いところ…

7月7日、BS11で放送された「西川のりおの言語道断」での発言について
 7月7日、BS11で放送された「西川のりおの言語道断」の中での私の発言の一部分だけが、時事通信の記事として配信され、多くの皆さんが違和感を抱いたり、怒りを感じたり、悲しんだりしておられるようです。
 記事だけを見ると、唐突に「拉致被害者北朝鮮に戻すべきだった」と述べたように受取られますが、是非、前後の文脈を知っていただいた上で、趣旨をご判断いただければと思います。
 拉致被害者の方々には一時も早く戻ってきていただきたいのは当然ですし、ご家族の方々のお気持ちを察すると言葉を失います。また、拉致という犯罪で、日本人の人生を奪った北朝鮮にも強い怒りを感じます。
その上で、一時も早い解決を願い、2002年の政府の対応が、安倍官房副長官(当時)の主張によるものではなく、福田官房長官(当時)の主張する内容であれば、小泉首相(当時)の行った歴史的な会談がその後も大きく展開し、かつ拉致問題ももっと大きな進展を見せていたはずだという趣旨を述べたものです。


追記
そういう意味では、福田政権下で北朝鮮に亡命した、よど号ハイジャック犯の引渡し交渉が進んでいるということは、再び、おそるおそるではあるが北朝鮮が日本(福田内閣)が交渉できる相手かどうか見極めようとしているところなのだろう。ハイジャック犯の方々には大変悪いが、彼らの身柄は交渉再開に当たっての様子見の道具に使われるくらいの北朝鮮からの評価ということなのだろう。



 その中で、「約束を守るべきだった」といいましたが、その真意は2つです。

1 拉致という犯罪を犯した北朝鮮から、「日本は約束を守らなかった」などといわれてはならない。日本人の誇りを大切にすべきである。
2 北朝鮮が拉致を認めて謝罪したあの時、北朝鮮アメリカの攻撃を恐れていた。だからこそ、一気呵成に交渉を進めて、拉致問題の全面解決を図るべきだった。しかるに、北朝鮮に「日本は約束を破った」という不信感と口実を与え、その後の交渉が途絶える一因を作ったと考える。
という点です。
ご参考までに、「西川のりおの言語道断」における、北朝鮮問題に関する発言を起こしたものを以下に紹介します。

                                                                                                                                                              • -

西川:(2002年拉致被害者の帰国に際して)、官房長官だった福田さんは、「返そうと、これは約束だから」と、安倍さんは、官房副長官で「いや返さない」と、いうことを我々は明確に覚えてるわけですよ。ここで、二人考え方がちょって違うと。
加藤:違う。もっとも大きく違ってね。西川さん、そこが重大なポイントだと思います。私は、福田さんが正しいと思う。
西:返したほうがよかったわけですか。
加:当然です。国家と国家の約束ですから。あのときに・・・。
西:でも、国民の感情としては、もともと拉致されたものである、返すことという道理は・・っていうのがありますよ。わかりますよ。なにを返すんだと、なりましたよね。
加藤さんは、返したほうがよかったと。
加:よかったと思いますよ。あのときに、ある新右翼の方が、毎日新聞にこう書いてました。
民族主義派、右翼の私がこんなこと言ったら、明日から私の家の電話はなりつづけるであろう。ただ、言う。返しなさいと」。で、あんな北朝鮮みたいな国に、日本は政府と政府の約束さえ守らない国だといわれるのは片腹痛い。この理屈でしょ。
で、あのときに、実は、これ返すってことを、みんなで、政府も約束して、それで日本に帰ってきて、いつ、じゃあ、こんど平壌に帰るんだろう、その時期を政府は何日と決めるんだろう、それをスクープ合戦してましたよね。メディアも。
ところがある日、安倍さんを中心に、返すべきではないといったら、この推移も全部忘れちゃってですね、いますよね。私は、その辺がね、実はいま日朝の間で、打開できない理由だと思います。で、私はね、小泉さんが行ったから、金正日は謝ったわけですね。「親の代にやったことだが、あれはまずかった、ごめんなさい」と。あの国では、一種、天皇陛下みたいなポジションの人物ですよね。
西:そうですね。
加:それが、謝った。何人は亡くなった、何人は生きてるから一回お返しします、そこまでいったわけでしょ。だからあの小泉さんの行動がなければ、小泉さんによる北朝鮮との話し合いがなければ、あの拉致の話は一つも進んでいなかった。
西:それとね、加藤さん、そのときに帰ってきた3人(5人)、(略)返しておけば、曽我さん、地村さん、蓮池さんです。一旦返しておけば、こんな展開にはならなかった?
加:そのときに、また来てくださいと、
西:あれ、一時帰国でしたよね。
加:また来てくださいといったら、何度も何度も交流したと思いますよ。でも、多分ね、一回返すと、平壌は殺しちゃうんじゃないかと、
西:うん、そういう説、流れました。
加:そこが、外交感覚の差ですね。そんなことができるわけがない。
西:北朝鮮サイドは、要するに、日朝平壌宣言の中身、約束を破ったと、いうふうに言ってますよね。向こうは、このことに対して。
加:はい。だから、ちゃんと守ってれば、それから大きな展開になったと思います。
西:うん。
加:ですからね、拉致の話と、核の話、この両方を話し合いで同時に進めないといけない。と私は思うし、福田さんが最近言ってるのは、「その両方をやりましょう」といってまして、これは安倍さん時代から大きな転換ですよ。
西:加藤さんね、洞爺湖サミットで、(略)
(中略、コマーシャル等)
西川:国交正常化が、拉致家族が帰ってくることにつながると。
加藤:そうです。だって、小泉さんが、「本来ならば誰も行っちゃいけないよ、総理やめて、行かないで」というのに行ったでしょ。勇気のあることです。小泉さんのやった唯一いいことだと思うんだけど。それでガラガラッと変ってね、白状したり、何人か返したり、したわけでしょ。だからあのときに安倍さんがついていかなきゃよかったわけ。
それであのまま小泉さんが路線進めていったら、多分もっと転換は早かったし、北朝鮮を巡る六者会談というのは、本当は、東京でやれたんですよ。東京でやって、日本の外務大臣やアジア局長が飛び回って、(略)やっていけば、もちろん原油も経済援助も日本からほしかったんだから、北朝鮮問題は、日本が仕切って解決した。
西:ということは、アメリカではなく、日本がかたずける問題だと。
加:日本がかたづけられた問題だった。日本がちゃんとやっていれば。
西:まず最初のスタートは、地村さん、蓮池さん、曽我さん、一時帰国だったにもかかわらず、このときに福田さんは返すと、安倍さんは帰る必要がないと、そのときに、返さないで日本に留めたためにこんなにも長引いてしまったと、
加:その通りです。だからもしその当時、福田さんの言うとおりやってたら、六者会談は日本で行われ、日本がアジアの一番困難な問題を解決し、世界の中のひとつの大問題の北朝鮮の核という問題も非核化し、おー、日本もやるじゃないかと、世界に思ってもらえたと思います。

                                                                                                                                                              • -

平成20年7月9日 衆議院議員 加藤 紘一

*1:当初無視あるいはそれほど注目されなかった拉致問題に対する関心がこれほど集まったのは、この被害者感情の強調が成功した為であると思う。ただ、その強調戦略が「家族会」や「救う会」への反論を許さないという面に強く働きすぎ、結果自縄自縛に陥っているように見える。

*2:当時の評価に関しても

*3:能力もないだろうが

*4:救う会」などの言によれば「拉致被害者すべての帰国」にいたるまでの。

*5:まさかチキンレースが成立すると考えていたのか?あるいは最終手段は戦争だと本気で思っていたのか?

*6:全員が存命したとしても

*7:決定当初はそう報じられていたはず

*8:正確には金親子とすべきかもしれない

*9:北朝鮮の門戸を開放し、交渉に当たっての信用を得る