選挙のパラドクス なぜあの人が選ばれるのか?

ウィリアム・パウンドストーン(著)篠儀直子(訳)青土社


 少し肩慣らし、もとい頭慣らしに専門にかなり近いということで本書をぱらぱらと読んでみる。ただ、逆にこれを頭慣らしに選んだのは失敗だったかもしれない…。大変、面白い本である。面白すぎて逆効果だったかもしれない…。


 冒頭から、アメリカにおける怪しい候補*1が、主に制度上の理由によって当選してしまう話が紹介される。
 その後、理論としては「アローの定理」を中心にすえながら、様々な「投票のパラドクス」の議論を取り巻く人々を紹介していく。
ゲーデル、モルゲンシュテルン、ケネス・アロー、ダンカン・ブラック*2コンドルセ、ボルダ、チャールズ・ドジソン…


 チャールズ・ドジソンはルイス・キャロルとしての名の方が知られているであろうか?
 本書での彼の紹介を読んで大爆笑…なんとアリス*3の両親にロリコンではないか(直接的には「不健全なものを感じ」と本書には記されている)と疑われていたらしい…。wikiには「ルイス・キャロル」像としてのドジソンしか描かれていないが、本書では数学者あるいはオックスフォード大学トリニティカレッジの学者としてのドジソンに中心が置かれている。


 まだ途中なので今後、色々補足するが…
 大変面白い
 小選挙区下でのスポイラー(直訳では「選挙妨害者」であろうか?辞書にない「ネタばれ」のspoiler 英語の海を泳ぐ/ウェブリブログの紹介にあるような使われ方もするようだが、ここでは“spoil”の語義そのままであろう。ただ、本書で紹介されているスポイラーはさらに踏み込むと「敵対する有力候補者の得票を分散させるためにその候補者に近い主張をもつ潜在的候補者の立候補を直接的、間接的に支援し、その結果立候補した候補」とも言えるかもしれない。)の登場は、日本において小選挙区制度推進の際にはまったくといってよいほど議論に上らなかった。日本においても、一部の選挙においてこの手の話がなかったわけではない*4ので、これから本当の意味で問題になる可能性がある。


 現在の時点までで、個人的に一番重い課題と思えるのはアメリカにおける選挙において、「ネガティブキャンペーン」がもっとも手軽で、もっとも有効な選挙運動になっているということ…。政治的にはほぼ新人にあたるオバマ自身に問題が少ないと分かったヒラリー陣営が、オバマの通っていた教会の牧師の発言を執拗にターゲットにしたのは記憶に新しいところ。今後の共和党・マケイン*5陣営の動きとラルフ・ネーダー*6の動きは大変気になるところ。


関連(書評があったので)

評者は本当に本書を読んだのかという疑問が…

*1:杉村泰蔵なんて目じゃない。辻正信クラス

*2:アローと同時期にアロー以上の水準に達していたと著者は評している。しかし、アローに比して日の目を見ることはなかった。

*3:そもそも物語を書き送った相手。本名はアリス・リデル

*4:民社党候補を自民が支援していたという話を耳にしたことがある

*5:共和党予備選挙のときにも少し話が出てきたが、マケインは前回の大統領選挙時、共和党内候補としてブッシュ陣営からの執拗なネガティブキャンペーンにさらされた。

*6:2000年選挙時にスポイラーとして機能したと評価された。2004年次も出馬を強行したが、このときは得票率が落ちスポイラーとして機能していたかは疑わしいと評されている。