田母神論文

(以下、mixiより執筆者(当ブログに時々コメントをくださるshouichi氏)の許可を得て転載)

航空幕僚長が筆禍が原因で更迭された。問題となった懸賞論文を探してみたら、見つかった。


こちらの会社が主催したそうだ。
【公式】アパグループ|APA GROUP
こちらの代表さんは安晋会の会員ですね。
歴史の本もお書きになっている。【公式】アパグループ|APA GROUP
出版記念のDVDも出したそうだ。
パーティも豪華で楽しそう。カッコいい制服を着た紳士は、例の幕僚長かな。
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で、懸賞論文のページはこちら。
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 最優秀賞は賞金300万円。審査員は渡部昇一他、そしておそらく代表さんも審査に加わっていたのだろう。
 ありがたいことに問題の最優秀賞論文がPDFファイルで公開されている。
【公式】アパグループ|APA GROUP (田母神論文PDFファイルなので注意)
 なかなか斬新な学説が展開されている。麻生首相や浜田防衛相(防衛相という響きは「長官」と違ってやっぱりカッコいいね)は、先の戦争を侵略とする政府見解に反するということを問題視したようだ。


 しかし、9頁にも及ぶこの論文には、重要な論点がまだまだあるはずだ。ということで、この論文の要点を書き出してみる。

  • 合法的かつ当時の列強の基準に即した形の条約でもって大陸に進出した日本に対し、違法なテロを繰り返した蒋介石は、その後第二次国共合作によって国民党内に入り込んだコミンテルンの手先に動かされ、日本側に盧溝橋事件を仕掛けて日本を日中戦争に引きずり込んだ。また、日米開戦はアメリカによって巧妙に仕組まれた罠であり、それを仕組んだルーズベルトアメリカ政府内にはびこっていたコミンテルンのスパイに動かされていた。つまり、日中戦争も日米の戦争も、どちらもコミンテルンの描いた絵だったということになる。
  • 対日戦争を決意したアメリカに対し、日本は戦争に踏み切る以外に採りうる策はなかった。「人類の戦争の中で支配、被支配の関係は戦争によってのみ解決されてきた。強者が自ら譲歩することなどあり得ない。戦わない者は支配されることに甘んじなければならない。(8頁)」(かくして譲歩ではなく戦うことを選んだ日本は、その結果連合国の支配に甘んじることになったのである。こうしたロマン主義的色彩を帯びたなんちゃってリアリズムがちょくちょく垣間見られて楽しい。これを書いたのが航空自衛隊のトップであることを踏まえて読むと、ある種のスリルも味わえる。一粒で二度おいしい。)
  • 先の戦争を「愚劣な戦争」と言い切ることは出来ない。東京裁判は戦争のすべての責任を日本に負わせた。その呪縛は今も日本を縛りつけ、日本を自力で守るための体制づくりを妨害している。その結果日本はアメリカにますます依存せざるを得ない。「アメリカに守ってもらえば日本のアメリカ化が加速する。日本の経済も、金融も、商慣習も、雇用も、司法もアメリカのシステムに近づいていく。改革のオンパレードで我が国の伝統文化が壊されていく(引用者注:経済上の改革を列挙したあとで、なぜか「我が国の伝統文化」を憂う。この論理展開の跳躍力は流石である)。日本ではいま文化大革命が進行中なのではないか。(8頁)」とはいえ、良好な日米関係を否定しているわけではない。「但し日米関係は必要なときに助け合う良好な親子関係のようなものであることが望ましい。(8頁)」いつまでも親に依存している子供ではダメなのである。
  • 多くのアジア諸国においては、大東亜戦争は肯定的に評価されており、日本軍は高く評価されている。ということで、我が国が侵略国家だったなどというのは濡れ衣なのである。


 一読して感じるのは、懐かしい安倍チックな雰囲気である。こういう論文の需要の根強さに驚かされる。それにしてもどこでこんな思想形成をしたのであろうか?防大か?


 戦前から戦後まで、我が国の正当性を一貫したものとして矛盾なく主張するには、コミンテルン東京裁判に全責任を負わせるのが手っ取り早い。代償としてコミンテルンの狡猾さ(政治の世界ではむしろ褒め言葉である)、そして日本のナイーヴさが際立つことになるが。


 もっとも、なんでもかんでもコミンテルンのせいにするだけでは、独自性に欠ける。空幕長は戦後から続く現在の国際秩序に対して根本的な不満をもっているが、他方、その中で日本が生き抜くにはアメリカへの依存が不可欠だったという事実は当然認識している。それがアメリカへの屈折した感情として現れている。この論文の最大の危険性は村山談話の無視になどにはない。それは、我が国単独で戦後60余年の屈辱を雪がんとするこの熱望にこそあるのだ。政府の情報機関は防衛省に対する内偵にもっと力を入れるべきなのではないか。


 それにしても、この論文で300万+ホテル宿泊券をゲットしたんだから凄いものだ。一ページで30万以上にもなる。恐らく最優秀賞は最初からこの空幕長で決まりだったのだろうが、優秀賞でも30万ももらえたのだから、応募してみてもよかったかも?「第一回」と銘打ってあるのだから第二回もあるかな。


コメント欄での応答より

ソ連と国民党の交渉と支援、それぞれの思惑については、酒井哲哉『防共概念の導入と日ソ関係の変容』が参考になります。それにしても、電波な本ばかり参照して9頁ばかしの論文を書いただけで300万だからねぇ。歴史修正主義やるんならもっと気合入れてやれって話ですよ。

三矢研究が旧陸軍の統制派的であるとするなら、この空幕長は皇道派に対米コンプレックスの枷をはめたフリークスって感じかな。