選挙制度と政党制

昨日の続きでid:kyo_juさんの
http://h.hatena.ne.jp/kyo_ju/243606288508173796
に対してのお返事


まず第一点として、これはちょっときつい言い方になるかもしれませんが石川氏は厳密な用語定義をされた上で使用されている訳ではありません。ですので政治制度論として石川氏の中選挙区制度評価(用語定義として)が妥当なものとは必ずしも言えないと言う立場を私はとります。後氏に関しては、山口二郎氏と並んで(当時の)左派側の小選挙区導入イデオローグであった方(そして山口氏と違って、未だそれに肯定的な方)なのですが彼の「中選挙区=準比例」との見方は「準比例」ではなく「少数代表」ならともかくとして「比例」の語を使用することで比例代表制度を貶めるかなり意図的なターム使用であると考えます。


>日本の中選挙区制は定義上大選挙区(単記または制限連記)制に含まれるので、「みなされることがある」のではなく、分類上そうである、ということだと思います
これは日本の選挙制度論の用語と一般的な政治学において定義されている用語をかなり意図的に混用している側面があります。日本の中選挙区制度は「SNTV」という投票方式ゆえに類型上「大選挙区制度」に含められているだけで日本の中選挙区制度を「大選挙区制度」(と理念系のレベルで到底言えない制度(そういう意味ではご指摘にあるような「選挙区の定数が小さい比例代表制大選挙区制」は辞書的な定義が必ずしもないというだけの問題で比例代表大選挙区と呼んでいいという訳ではないのです))とその留保なくみなす政治学者は皆無といってよいと思います。


>地方に3人区が多く、都市部に5人区が多いとか、地方では候補者が固定されがちというのは、一般的傾向だったとまで言えるかどうか疑問
これはご指摘の通りです。私の印象で論じていました。どこを都市でどこを地方とみなすかという点の議論が別途ありますが、都市部などでかなり意図的に少人数区が成立しているような場合もありました…定数是正問題とも関係する部分ですが


>ある時期に中選挙区制に対してはあれだけ批判的議論・研究を集中させた政治学界のマジョリティが、小選挙区比例代表並立制については沈黙するのだとすれば
これは「制度」を巡る研究を少しばかり簡易なものと考えすぎではないかと思います。ある制度が、その制度の導入の結果として現状に影響を与えるということを評価する時の観察にはかなりの時間を要すると言わざるを得ません。例えば私がブログにて言及したラムザイヤー、ローゼンブルースの著作にして中選挙区制度の評価を91年になって完成系として出しえたと言えるわけです。(カーティスの「代議士の誕生」が71年)実際問題、制度変更から政権は何度も変わりましたが衆議院選挙はたった5回しか行われていません。議員が中選挙区制度下からリセットされる訳ではないので、例えば政治資産の側面からだけ見ても中選挙区下で築かれた政治資産と小選挙区下で機能する政治資産の検討を行うのは困難を極めると思います。(しかも5回中1回は大平氏が亡くなった時と同じような小泉郵政選挙というある種の特異点だったことも分析上は大きな障害になると思われます)


>並立制になって政治資金がかからなくなったという研究
主に聞き取り調査などが多かったと思いますが、中選挙区時代の政治資金についてかなり網羅的に整理した「代議士とカネ」の執筆者の一人であり、小選挙区制度導入にかなり積極的に働き掛けたと言われる佐々木毅氏と近い谷口将紀氏がhttp://www.jcie.or.jp/japan/pep/G21th/taniguchi.pdf(PDF注意)で述べているように、捕捉等が容易になったことで減っているようだ…という傾向(ただかなりの側面でこの調査は実感ベースでしか論じ辛い…なぜならそれ以前の実態捕捉が実質的に困難を通り越して不可能だから)を「政治資金規正法」(政党助成法と一体化して取り扱われた訳ですが)の改正の影響と見るか、選挙制度変更の影響と見るかは非常に困難な作業であろうと思います。(もう一つ最大最高の政治資金縮小の理由として「日本経済」の影響というのも挙げられますし…)(あと谷口氏の「現代日本の選挙政治―選挙制度改革を検証する」は色々疑問もありますが面白い本です

現代日本の選挙政治―選挙制度改革を検証する

現代日本の選挙政治―選挙制度改革を検証する

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>「一般的な『大選挙区制度』」においてもほぼ同様に妥当するように思いますが
これは大選挙区の規模と投票方式の変更によって大幅に違います。確かに「党内候補同士の対立」という観点は多かれ少なかれ出てきますが、選挙後の議会戦略を考えた場合「SNTV下での日本の中選挙区」のような個々に任せた選挙運動では政党としての利益の最大化は望めません。つまり本気で勝とうと思うと、現在の統一地方選挙におけるような公明党のような事前の綿密な調整が要請されることになります(大勢を占める候補者が議員は個人として議会に出て、議会登院後「派」の形成を行えばよいと考える可能性もありますが…それは早晩より組織的様態を強くとる政党にとって代わられるでしょう)。それと同時に選挙区の巨大化は事故の後援会だけでの運動を困難なものにします、特に政党に資金管理団体アドバンテージを強く与えているのでその点でも政党による政治家への行使可能な影響力はますと考えてよいと思います。