鉄道

産経ニュース

ローカル鉄道の廃止が相次いでいる。直接のきっかけは、規制緩和によって市場原理が鉄道事業にも持ち込まれ、地元が反対しても容易に廃止できるようになったためだが、一方で地方の過疎を加速させている。政府は歯止めをかけるため、赤字ローカル線の生き残り策などを支援する地域公共交通活性化再生法を制定、10月から施行される。(地方部 佐渡勝美)
今年廃止されたローカル線は、宮城県くりはら田園鉄道線など3本あり、9月には宮崎県の高千穂線(一部区間29.1キロ)が廃止される。さらに来春までに、長崎県島原鉄道線(一部区間35.3キロ)と兵庫県の三木線(6.6キロ)も廃止される予定だ。
鉄道事業では従来、需給調整の名の下に厳しい参入規制が行われ、国はもうかる路線での独占運行を事業者に認めて超過利潤を生ませ、その見返りに赤字路線の維持も半ば義務づけていた。しかし、平成12年3月施行の改正鉄道事業法によって参入・退出(廃止)規制が大幅に緩和され、廃止予定日の1年前までに廃止届を出せば、自動的に廃止できるようになった。
このため、赤字ローカル線の廃止が急増し、同法施行後にすでに21路線(貨物線は除く)が廃止されている。
問題なのは、ローカル線が廃止されると、やがてその地域が公共交通機関の空白地になるケースが多いということだ。廃止後は代替交通機関としてバスが運行されるが、バスは鉄道に比べて運賃が割高なこともあり、廃止直後でもバスの利用者数は鉄道の50%前後にとどまることが多く、さらに年々減っていくのが通例だ。バス路線も廃止になれば、車の運転ができない高齢者などにとって、そこは居住できない土地になってしまう。
4月にくりはら田園鉄道線が廃止された宮城県栗原市では、代替バスの利用者が月平均約6000人で推移している(鉄道時代は月約1万4000人)。市は委託しているバス運行会社の赤字を市の予算で補填(ほてん)(年間約4000万円を想定)していくが、「沿線の高校の統廃合などでバスの利用者が減れば、5年後の状況はわからない」(市企画課)という。
急激な地方の荒廃に直面し、国交省総務省が中心となって成立したのが、地域公共交通活性化再生法だ。同法の柱は、(1)市町村や交通事業者、住民たちで協議会を設けて「地域公共交通総合連携計画」を策定できる(2)同計画の中で、超低床車両の新型路面電車(LRT)の導入などの特定事業には国が財政支援し、適宜、規制も緩和する(3)鉄道の廃止届が出されても、事業者と自治体・住民が公式協議の場を持ち、路線維持のための自治体の支援額などで合意すれば、廃止を延期できる−など。
要は、事業者任せにせず、住民も参加して地域全体で交通システムを積極的に支え、条件が合えば国も支援するというものだ。
同法の実効性について慶応大学の中条潮教授(交通・公共経済学)は「地域によっては有効だろうが、中山間地ではこの法による再生は難しい。ローカル線が廃止になるような所ではすでに地域の崩壊が始まっているケースも多く、集落の移転など、自治体は次の局面の手を打つ必要がある」と話している。