中ロの利害一致

チベット暴動:中国当局を支持−−露外務省
 【モスクワ杉尾直哉】中国チベット自治区の暴動で、ロシア外務省は17日、中国当局による暴動制圧を支持する声明を出した。「チベットは中国の不可分の領土だ」との内容。また「北京五輪を政治問題化しようとする動きは容認できない」とも指摘し、チベット問題に絡んで五輪ボイコットなどの声が高まるのをけん制した。
毎日新聞 2008年3月18日 東京夕刊

 チェチェンの鎮圧で成功し*1、現在ロシア国内で磐石の権力態勢を築いたプーチンとその後継者とされるメドベージェフ。ロシアは西ではEU圏の拡大やユーゴ解体(コソヴォの独立など)の脅威にさらされ、南西ではチェチェン南オセチア独立運動に悩まされている。そういう意味で、同じ悩みを共有しながら、ロシアの場合は強硬策をとることで乗り越えてしまったという、中国にとって悪い意味で先例となっている。
 ロシアの強硬策を下支えした、外部要因として、アメリカの中東への介入があるのは間違いない。今回のチベットに関しては、明らかにそれは存在しない。アメリカ国内でもイラク戦争をはじめとした、中東への軍事介入を失敗だったという見方が増えてきている。民主党の次期大統領有力候補二者の初期の論争が、イラク戦争に関するもので争われていたのも記憶に新しい。
 そうした中、西側(主にアメリカ)からの批判に中国はロシア以上に直接的にさらされる。北京オリンピック美術監督スピルバーグが降りる、あるいはビョークによる中国のチベット政策批判など西側諸国のチベットに対しての関心も、チェチェン南オセチア以上のものがある。*2

チベット暴動:収拾不能なら「退位」ダライ・ラマが訴え
 【ダラムサラ(インド北部)栗田慎一】チベット仏教最高指導者のダライ・ラマ14世は18日、チベット亡命政府があるインド・ダラムサラで記者会見し、中国のチベット人による暴動がさらに拡大し収拾不能となるなら、「(チベット指導者としての地位を)退位する」と述べた。さらに「暴力にかかわるな」と訴え、支持者や信者に非暴力を貫くよう求めた。
 中国の温家宝首相は同日、暴動は「ダライ一派」により計画され扇動されたと非難。ダライ・ラマは中国政府とのこれ以上の関係悪化を食い止めるため、事態の収拾に乗り出したとみられる。
 ダライ・ラマは、チベットの中国からの独立は現実的ではないと述べ、「たとえ1000人のチベット人が命を犠牲にしても(独立を)助けることはない。暴力は自殺行為だ」と訴えた。また「反中感情をこれ以上強めてはならない。我々は中国と良い関係を築き、ともに生きていかねばならない」と述べ、対話を通し中国との共存を探るべきだとの考えを示した。
 また、亡命政府の報道官は18日、中国でのチベット人と治安当局との衝突で新たに19人の死亡が確認され、チベット自治区ラサでの暴動が発生した14日以降の死者数は計99人となったことを明らかにした。ロイター通信が伝えた。
毎日新聞 2008年3月18日 20時48分

 ただ、今回のチベットでの「暴動」*3が、どのような経緯で、どういった主体によってなされたのか、どのように広がったのかは明らかにされなければならない。ダライ・ラマは2003年頃から「独立」ではなく「高度の自治」を求める姿勢に転換していた*4。中国の感情的反応を見ると、今回の「暴動」はそれすらも遠ざけかねない。独立運動を行うのならば、もっと巧妙であるべきだ、独立運動でない「暴動」であるならば、原因(主張)はなにか明らかにされるべきだ。

*1:あくまでロシア人のイメージ的にだと考えていますが。

*2:そういう意味ではムスリムが多いチェチェンや独立側がカトリックだった旧ユーゴの一部の例とでの対応の格差は分かりやすいといえば、分かりやすい。

*3:独立運動かどうかはいまだ判別できないのでこの用語を使用する。

*4:香港や台湾、またチベットより過激といわれる運動勢力をもつウイグル自治区を抱える中国にとってそれは避けざる道であったであろう。